国政報告
参議院予算委員会公聴会

平成25年5月2日(木)
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○石井一予算委員長 ただいまから予算委員会公聴会を開会いたします。
 本日は、平成二十五年度一般会計予算、平成二十五年度特別会計予算及び平成二十五年度政府関係機関予算につきまして、六名の公述人の方々から順次項目別に御意見をお伺いしたいと存じます。
 午前は、慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授小幡績君、第一生命経済研究所主席エコノミスト永濱利廣君及び経済評論家上念司君に公述人として御出席をいただいております。
 この際、公述人の方々に一言御挨拶申し上げます。
 本日は、御多忙中のところ本委員会に御出席いただき、誠にありがとうございます。委員会を代表して厚く御礼申し上げます。
 本日は、平成二十五年度総予算三案につきまして皆様から忌憚のない御意見を拝聴し、今後の審査の参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願いいたします。
 次に、会議の進め方について申し上げます。
 まず、お一人十五分程度で着席のまま御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑にお答えいただきたいと存じます。
 それでは、財政・経済・金融について、まず小幡公述人にお願いいたします。小幡公述人。

○公述人 小幡績應義塾大学大学院経営管理研究科准教授 小幡です。おはようございます。よろしくお願いします。
 座ってやれということですので、恐縮ですが、座ってやらさせていただきます。
 安倍政権誕生以来、世の中は一部明るくなってきまして、これはやっぱり株高の影響がすごく大きいのと、もう一つはやはり安倍総理の人格といいますか、格好いいリーダーシップというのが世の中を明るくしているということは事実だと思います。麻生大臣のお言葉によれば、オプティミスティック・デュオですか、明るい二人ということで、楽観的な二人が引っ張るということで世の中も明るくなるということだそうです。
 実態からいうと、その株価の影響、物すごい大きいと思うんですけれども、ただ、株価はかなり上がったんですけれども、株価の影響は基本的に二つだと思っています。世の中がやっぱり明るいということになると前向きになるということは確実にあると思います。ただ、もう一つは、世界的な株価上昇の流れの中で日本もそれに乗っていると。そこで、円安ですとドルベースで見ますと割安になっていくものですから、ドルで見ると日本で見るほど上がっていないので、買いが続くということがあると思います。
 あともう一つは、やはり金融政策が異次元と今言われる金融政策になります。その前、安倍総理では大胆な金融緩和ということですが、これが世界の期待を持ち上げたところはあるというふうに思います。ただ、私自身はこの金融政策はかなりリスクの高い金融政策ではないかと思っておりますので、今日は、経済全般ということですけれども、その中でも金融政策を中心にお話をさせていただけたらと思います。
 資料は、何かパワーポイントというやたら無駄にでかい文字で書いてある資料を中心にですけれども、時間もございませんので、後ほど御質問があればその中で何か御説明必要であればしたいと思いますが、大まかな話をしたいと思います。
 まず一枚めくっていただいて、四つ問題点がありまして、インフレを起こすということですけれども、インフレ自体は良くないんだということが一つ。期待インフレを起こすことによって将来前向きになるんだという話がありますが、期待インフレ率の上昇というのもそのもの自体としては良くないということです。異次元の金融緩和、とりわけ四月四日以降、日銀黒田新総裁になりましてからの金融政策というのは明らかに良くないというふうに思っております。
 私自身は円安も長期的には日本経済に良くないと思っておりますが、ここは短期には意見が分かれるところであると思いますので、時間の範囲で最後に触れたいというふうに思います。
 まず、インフレは良くないという話は大分広まってきたといいますか、皆さんも御理解されているかと思いますが、一枚めくっていただくと、リフレ政策というのはインフレを意図的に起こすことによって動かそうということですけれども、インフレ自体良くない。
 今日たまたま、今朝といいますか、昨晩といいますか、FOMC、アメリカの中央銀行の方も政策決定会合がありまして、量的緩和続けますということですけれども、あれを読んでいただいてもお分かりのように、インフレを起こすという政策ではないですね。インフレが多少上がってきても、失業率が高いので頑張って金融政策続けますと。ですから、インフレが落ち着いてもらっている方が金融緩和を継続するという意味では、FRBにとっては、アメリカの中央銀行にとっては良いということですので、インフレが上がってくるまではとことん金融緩和しますよと、失業率が今とても高いので、多少上がってきてもちょっと目つぶって失業率優先でやりますよと、そういう政策ですので、インフレにしようという政策はアメリカやその他の国でも基本的にはやらないということです。
 日本だけデフレだという話があると思いますが、それは時間があれば後ほどということです。
 金融政策でインフレにはならないと。これは端的に言いますと、賃金水準が全体で下がっていきますので、どうしてもインフレにはならないと。ただ、景気回復はする可能性はあります。景気回復とインフレとはまた別物ですので、デフレだからといって景気回復しないわけではありません。ただ、景気回復してくれば、結果としてデフレからインフレに徐々になっていくというのは当然なんですけれども、ただ、その状況でインフレを起こしても、所得が上がらないままインフレだけ起こしても、むしろ、いわゆるスタグフレーションといいますか、インフレの下での不況が進むということになってしまう、一番悪い状況ですので。ですから、インフレを起こすということではなく、金融緩和を継続するというのは政策として、賛否両論あるんですけれども、あり得ると思うんですけれども、インフレを起こすということ自体は意味がないということをもう一度御理解いただければと思います。
 一枚めくっていただくと、賃金上がらなければ生活水準を下げるとか、そういう話はさんざん皆さん聞かされてきたかと思いますので、一枚めくっていただいて。
 あとは、政府の財政問題の解決になるんじゃないかという話がありますが、これはならないというのがコンセンサスだと思います。これはドイツの銀行、ドイツのブンデスバンクのエコノミストがアメリカについてシミュレーションをしているのが有名ですけれども、名目金利も上がってきますので、実質債務のもの、債務側ですね、借りている借金の実質額が目減りして税収が多少増えても借入金利はどうしても上がってきますので、トータルで見ると改善はしないということです。
 一枚めくっていただいて、期待インフレ率上昇はいいんだという話。これは、ゼロ金利ですから、実質金利を更に下げるためにはインフレになってくれた方が、そのインフレになった下で日銀がゼロ金利を継続すればいいんじゃないかという話がありますが、低金利が相当続いていますので効果も出尽くした感もあり、設備投資需要や投資ですね、これは金利というよりは実需に基づいてなされています。これはよく御存じだと思うんですけれども、世界的に需要が伸びていくアジアや新興国で、現地で製品開発もする方が効率的ということですので、投資するとすれば海外と。ということですから、やっぱり需要をまず出すということが重要ですので、実質金利の問題ではないです。
 デフレスパイラルという話はもっとすごく大きな、物価下落が続いているときは物を買うのを控えて底値で買うと。これは株式市場等ではよく見られる現象ですけれども、日常生活では一般的には見られませんし、日本の現在でも見られないというふうに思います。
 ただ、駆け込み需要を起こすかのような、インフレが起きると将来値段上がっちゃうんだったら先に買っておこうと、消費税が上がるときは必ずこういうことが起きるんですけれども、これは実はその反動減が物すごく大きくて、三から五に上がったときも駆け込み需要は政府の方でも計算していたはずなんですけれども、その反動減は駆け込み需要よりもはるかに大きいというのが過去の経験です。エコポイントのときも反動減はかなりきつかったのではないかというふうに思います。
 めくっていただいて、デフレマインドの脱却というのは、先ほど安倍総理、麻生大臣の政策ということで、デフレマインドの脱却ということに取り組んでおられると思うんですけれども、これは資産市場には効きます。資産市場は、みんなが買えば上がるので、みんなが買うんだったら買おうと思うわけですね。ですから、全体のムードというのは非常に大きく影響します。どんなに日本の株が割安だと思っても、みんなが割安だと思っていてもまだ上がるのは先だと思っていれば、慌てて買う必要はないということでみんな急いで買いませんから、じゃ、先に上がるインドネシア買っておこうとか、そういう話になりますので、そういうのは資産市場には効いています。実際、株価も上がっているわけですけれども、普通の財市場では起きませんので、景気回復とは無縁だと思います。
 一番大事なところですが、一枚めくっていただいて、大胆な金融緩和は余り良くないということですが、金融緩和は逆説的ですけれども景気を悪くする可能性もあるということです。
 極端な金融緩和がずっと進んでいますから、こうしますと、一番今日お伝えしたいことの一つは、資産市場と物の市場ですね、いわゆる実体経済の市場とはつながっていますけれども別物だと。金融政策というのは、基本的には、金利を下げることによって実体経済での投資、実物の投資ですね、設備投資とかあるいは消費を喚起するということを目指しているのが金融政策なんですけれども、ゼロ金利になってしまうとなかなか厳しいので、長期の金利を下げるためにいろいろな手段を取るわけですけれども、そうはいっても限られているので、結局、資産市場にとっては、金融緩和がずっと続く、お金がいっぱいあるということですと投資を増やそうということになりますが、証券投資は増えるんですね。
 ですから、資産市場、いわゆる金融市場にはお金はどっと流れるんですけれども、実体経済にそれが及ばないということが世界的にも起きていますし、今のアメリカの金融緩和にも賛否両論あるのはそういうところで、バーナンキ議長もその辺を工夫して何とか実体に働きかけようということだと思います。日本銀行もそういうスタンスで従来から臨んできていると思います。このときに、リーマン・ショック前の金融バブルというのは、その金融緩和を、ある意味、テロとかエンロン問題とかいろいろありましたので、アメリカは金融緩和をし過ぎたために起きたというのが一つの考え方になっていますので、そういう意味では非常に経済にとってマイナスな場合もあると。
 今回、現在の日銀の金融緩和ですけれども、国債の大量購入をするというのが一番のポイントですけれども、こうすると、従来国債を持っていた人たちは言わば追い出されるわけです。七割を日銀が買うということですと今まで買っていた人たちは買えなくなるので、これは恐らく買いが増えるわけですから、今ちょっと乱高下して混乱していますけれども、値上がりしてくる、方向としてはなると思うんですけれども、そういう値上がりしてメリットもあるんですけれども、結局追い出されてしまうので、その後どうしていいか分からない、困る。
 特に、このとき、この二枚紙の、私、今度新しく出す本の、国債の本を書いたんですが、その本からの引用ですのでちょっと汚くて申し訳ないんですけれども、二枚紙の資料で何か円がある絵があると思うんですが、これは金利リスク量を絵にしたもので、要は、国債というのは買っている量だけじゃなくて満期が重要なんですね。つまり、二十年満期の国債を持っているのと二年で満期が来る国債を持っているのではリスクが全然違いますので、長いものを持っている方がリスクがあるということです。そうしますと、普通、大手銀行よりも生命保険の影響がすごい大きいということがあります。
 ここで、ちょっと絵では分かりにくい部分もあるんですけれども、信金とか信用組合と呼ばれる中小の金融機関は実はすごくリスクを取って長い国債を持っています。これは、彼らは小さいものですからコストがそれなりに高いと、大手とはちょっと違うということでそれなりに運用益を稼がなきゃいけない。融資も、地方経済、融資先がなかなか減ってくる。その中で稼ぐとなるとリスクの関係から国債に投資が限定されることが多いんですけれども、その場合に、やっぱり短期のですと金融緩和が続き過ぎたために低くなり過ぎて、これでは赤字になってしまってもたないですね。ですから、だんだんだんだん高い方に押し出されていて、こんな長い金利を小さいうちが取って大丈夫なのかと思いつつ、ほかに手段がないものですから、そこを持ち続けてどんどんリスクが中小にたまっていくと。
 大手の方は、皆さん新聞等でお聞きかもしれませんが、どんどん、デュレーションと呼ばれるものですけれども、満期を短くして、二年とかそういうふうにしてリスク回避していくわけですね。国債もほぼ、長期もゼロに近づいてきて、価格もピークに近いという見方が広がっていますので、できるだけリスクを避けたいと。その中で中小は持たざるを得ないと。これは非常に危ない状況です。これは、融資に、じゃ国債を売って回ってくれればいいんですけれども、融資できるぐらいなら国債を買ってないというのが銀行の実情ですので、これは非常にリスクの高い政策ではないかというふうに思います。
 一枚めくっていただくと、財政ファイナンスという話がよく出てくるんですけれども、財政ファイナンスとみなされるかどうかよりも実際に国債を買い続けているということ自体が重要だと思います。
 つまり、日本の個人金融資産は一千五百兆円とか言われますけれども、一千兆国債に行っているということは民間に回る投資資金が足りなくなっていると。民間の投資が出ないからという議論もあるんですけれども、これは鶏と卵の部分もありますが、ただ、ずっと資金が一番成長を生み出さない公的分野に行くというのは経済全体としては効率が非常に悪いので、成長を一番阻害しているのは国債の大量発行残高ではないかというふうに思います。ですから、それは財政ファイナンスとみなされるかどうか関係なく、日銀が引き受けることによって金利が低くなり続けて発行しやすくなるというのは余りいいことではないのではないかというふうに思います。
 一枚めくっていただくと、先ほどの中小の金融機関が困るという話を安楽死という形でちょっと言葉を使ってみました。つまり、暴落はしないと思います、日銀が買い支えて暴落させないと思うんですけれども、そうすると、どうしても資金が中小の金融機関にたまったまま動けなくなっていく、経済全体も大量の国債を経済で抱えたままになって成長できなくなっていくと。こういう状況をここでは安楽死という言い方で、金融機関、金融市場、日本経済が安楽死になるというふうに記述させていただきました。
 もう時間もありませんので、大体金融緩和の話ししましたが、驚かすような金融緩和をさせると乱高下しました。先ほどの二枚紙の資料の二枚目を見ていただくと、四月四日以降の国債金利、これは先物ですけれども、乱高下の様子、これ皆さんよく御存じだと思いますが、起きています。乱高下はとにかく良くありません。価格が高い中で乱高下が起きるということはリスクが高くなっているということなので、これを機に国債は利益確定して売ってほかのところへ行こうと。これが融資とかに回ればいいんですけれども、外債を買ったりとかでは良くない。株を買えば株が上がるという効果は一応あるんですけれども、そこもなかなか賛否ありまして、持続力があるかどうかというところもあると思います。
 もう時間もありませんので、最後、円安の話はちょっと余りできなかったんですが、基本的には交易条件が悪化するということですので、輸出企業の一部は利益が出ますが、これはしかも、雇用、生産、増えないですね。なぜかというと、円高だからといって値段を上げていたわけじゃないんです。
 例えば、アメリカ市場でBMWとレクサスが競争するときは市場で妥当な価格が決まってくるわけです、五万ドルとか。ですから、円高だろうが円安だろうが価格は基本的には変わりません。ただ、利益率は変わります。国内のコスト構造は変わるし、調達場所は変わります。ですから、国内部品メーカーがちょっと一息つくというのは円安だとあります。利益は増えます。ですから、大企業、まあ自動車メーカーの利益が増えると思うんですけれども、雇用も生産も増えないというふうに思います。
 ですから、それは利益が増えるのはいいので、いい部分もあるんですけれども、ただ、輸入コスト、原油等の輸入コストは上がるということもありますし、長期には日本経済にはマイナスだというのは、構造転換を図るには円高で海外の企業を買った方がいいんだという話でした。
 最後、一枚の、公聴会の、望ましい政策をこちらに書きました。
 今まで述べましたように、金融政策については、異次元の量的緩和はやめた方がいいんだと、物価自体は余り関係ないということです。ただ、緩和は続けた方がいいということです。
 財政政策に関しては、やっぱり国債の大量発行というのが一番の問題ですから、これは国債発行を減らした方がいいと。消費税の引上げは、駆け込み需要の反動減が非常に怖いので、経済的に言うと余り良くないと思います。ですから、六、七、八、九、一〇と一年一%ずつ上げていくようなことができれば理論的には一番いいのではないかと思います。これを景気状況で変えるということになりますと、世界から国債マーケットに対する見方が悪くなって国債暴落のリスクも出てきますのでそれはできないんですけれども、そこは消費税でなくてほかの景気対策でやったらどうかと。
 雇用については、時間がありませんので、後ほど時間がありましたら御質問を受けたいと思います。
 どうも御清聴ありがとうございました。

○石井一予算委員長 ありがとうございました。
 次に、永濱公述人にお願いいたします。永濱公述人。

○公述人 永濱利廣第一生命経済研究所主席エコノミスト 第一生命経済研究所の永濱と申します。本日はこのような機会をいただきまして、誠にありがとうございます。
 私は、民間の生命保険会社のシンクタンクというところで経済の分析及び政策提言、これをやらせていただいておりまして、かねてから日本経済の復活には産業の六重苦の解消、これが不可欠だということを主張してまいりました。そういう中で、今回行われておりますアベノミクス、この政策はおおむね賛同できるものなのかなというふうに考えております。
 そういう中で、ちまたにアベノミクスに対する誤解ですとかそういったものがはびこっているなというふうに非常に感じております。そういう中で、今回はその誤解に関して、どういうふうに違うのかということを中心に御説明させていただければというふうに考えております。
 お手元の八ページ物なんですけれども、横長のA4の資料なんですけれども、こちらを基に御説明させていただきたいというふうに思います。
 まず、一枚おめくりいただきまして、アベノミクスの誤解という一つのポイントといたしましては、いろんなマスコミ報道等で、円安が進んだことによって輸入物価が上がって非常に家計が苦しいと、中小企業も苦しいと、こういったような御批判がございます。ただ、結論から申し上げますと、足下の負担増、これは主因は円安ではなくて原材料そのものの値上げ、これが主因であるということでございます。
 実際、年明け以降、いろんなものが値上げになりまして、私がいろいろ新聞報道等でピックアップしてみますと、消費者物価の構成品目に影響を及ぼすものでは十品目ぐらいあります。実際、それ全部消費者物価の押し上げで計算すると、大体〇・九%ぐらい押し上げるインパクトがあるというふうに計算しているんですが、実は、その中で非常に負担増の影響が大きいのは、ここに二ページ目のところに、サブタイトルのところにあります、小麦とガソリン、電気、自賠責保険、これによって実に〇・七%ポイント以上の押し上げということでございます。
 じゃ、これらの要因は、どういった要因で値上げになっているのかということを見てみますと、まず自賠責保険につきましては、これはもう考えるまでもなく、円安の要因ではないというところでございます。
 それから、実は自賠責保険のところが一番押し上げ効果が高いんですけれども、次に押し上げ効果が高いのはガソリンでございます。確かにガソリン、今年の二月から三月まで値上がりをして、これはやはり円安の要因は効いていたと思います。ただ、足下では商品市況が落ち着いていることで、ガソリンも七週連続で下がっているというようなことになっております。
 さらに、次に大きい要因といたしましては小麦です。これの売渡価格なんですけれども、これは実は、資料を御覧いただきますと、二ページの左側のグラフでございます。小麦というのは、これはもう御案内のとおりだと思うんですけれども、政府の売渡価格、これ年に二回改定されると。今年の小麦の売渡価格は四月からの改定で九・七%上がったということなんですけれども、これ、基になっていますのが昨年九月から今年の二月までの小麦の買い付け価格ということでございまして、これは小麦の国際市況と為替の要因で効いてくると。
 じゃ、この要因、どれぐらいが円安の効果かということで計算をしてみますと、この資料にありますとおり、実は円安に伴う値上げの要因というのは四分の一でございまして、四分の三程度が国際的な小麦の値上がりであるというところでございます。そうはいっても、三月以降も円安が急激に進んでいるわけで、じゃ、それ以降小麦の値段は上がるんじゃないかというような御心配もあるかもしれませんが、これにつきましても、同じページの右側のグラフでございます。実は小麦の方も国際商品市況が今値下がりをしておりまして、幸いなことに円安の負担のところを小麦の値下がりのところで相殺してもらっているということでございますので、次の十月の価格改定のときにはそこまで値上がりする可能性は高くないのかなというふうに考えております。
 それから、一枚おめくりいただきまして三ページのところでございますけれども、ここの部分がこれからも多分値上げが続いてくるということで結構負担になってくると思うんですけれども、電気料金でございます。
 電気料金につきましては、値上げの要因といたしましては燃料費の調整制度でございまして、これは三か月前までの三か月移動平均の輸入価格で決まってくると、化石燃料のコストの。今ウエートが一番大きいのは天然ガスですから、それを、じゃ過去三か月移動平均で見て、為替の要因がどれぐらいで効いているのかということを見てみたものが三ページの左側のグラフでございます。
 これ御覧いただきますと、実は半分強はLNGそのものの値上がりでございまして、こういった形でもろもろの値上げの要因をトータルで考えてみますと、〇・九%の値上げのうち円安の副作用というのは〇・二から〇・三%程度でございまして、これをもってして値上げが全て円安でアベノミクスの副作用というような形での報道というのは、これは違うのかなというふうに考えております。
 さらに、円安につきましては、短期的には輸入コストが値上がりするかもしれませんけれども、一方で、国内の生み出す付加価値の競争力を増すということを通じて家計の所得、企業の収益増加を通じて家計の所得の増加にも結び付いてくるということが予想されます。
 実際に、これは内閣府が直近で発表しています最新のマクロ計量モデルの結果を引用してまいったものなんですけれども、三ページの右側のグラフを御覧いただきますと、これは円の対ドル一〇%減価の影響ということを見ますと、これ、民間消費デフレーターというのは、ある意味、消費者、家計が買う、消費者物価に近いものなんですが、これの値上がり分に対して単位時間当たりの賃金の上昇の方が上回っているということからすると、こういった、若干タイムラグが伴うかもしれませんけれども、円安に伴う収入の増加というプラスの方が大きいことからすると、これは円安が副作用が大きいというところで批判することは少し違うと。むしろ、原材料のそのものの値上げ分をいかに相殺するかという方向性に持っていくのが正しい方向性なのかなというふうに思います。
 特に、為替につきましては、いろいろ議論があるんですけれども、IMFとかOECDなんかで出しています購買力平価というデータで見ると、大体日本の適正なレートって一ドル百円強ぐらいですので、少なくとも、今までの円安というのは過剰な円高からの修正という段階ということを考えれば、この修正の部分を悪というふうにとらえるのは違うのかなというふうに考えております。
 続きまして、一枚おめくりいただきまして、もう一つアベノミクスに対する批判でございますけれども、物価ばっかり上がってしまって賃金が上がらないというような批判がございます。
 ただ、これも少し違うのかなというふうに考えていまして、四ページの左側のグラフを御覧いただきたいんですけれども、これはもう経済学的には非常にオーソドックスな理論でございまして、フィリップス曲線ということでインフレ率と失業率のトレードオフの関係を見たものでございますが、これも日本は非常にきれいな関係があるということでございます。
 これは何を意味するかというと、それなりに物価が上がってくる、上昇では相当労働需給が逼迫してくるということでございまして、労働需給の逼迫を通じて賃金もそれなりに上がっている状況にあるので、賃金が上がらない中で物価ばっかり上がっていくということはなかなか考えにくいのかなというふうに考えております。
 それから、株価なんかが上がる、円安、そういったことによって、マーケット的には盛り上がるけれども実体経済には波及は乏しいんじゃないかというような御批判もありますけれども、これも実際、例えば四ページの右側のグラフにありますとおり、過去の日本企業の売上高と株価の変化率を見ても非常に連動しているということからしますと、既に足下で資産効果で個人消費なんかも相当伸びているということからすると、やはり株価の上昇、円安というのは実体経済にも相当大きな効果をもたらすということが言えるんじゃないかなというふうに考えています。
 実際に、足下では家計に恩恵というのが既に及びつつありまして、まずは家計が保有している千五百兆円の金融資産のうち、間接も含めて一割ぐらい株を保有していると思うんですけれども、そのうちの株の上昇というのはもう既に家計は恩恵を受けていると。さらには、残業代なんかも既に足下で増えているデータが確認できますし、非正規労働者中心でございますが、年明け以降雇用も増えていると。さらに、一部企業ではございますけれども、夏のボーナスも上げる企業が出てきて、民間シンクタンクの今年の夏のボーナスの予想を見ても軒並みプラスということからすると、徐々にではありますけれども、着実に家計にも恩恵が及んできているということだと思います。
 こういった御意見に対してよく批判を受けるのが、そうはいったって、前回の戦後最長の景気回復のときには賃金増えなかったじゃないかというような御批判があります。これにつきましては、結論から申し上げますと、前回の小泉政権のときの戦後最長の景気回復のときには高過ぎる賃金の調整の段階にあったというふうに私は考えております。
 具体的には、五ページの左側のグラフを御覧いただきたいと思います。そもそも、理論的には賃金というのは労働生産性見合いで決まってくるということになっているわけですが、このグラフを見ますと、過去の日本の労働生産性と実質賃金の関係を見てみると、やはりバブル期のころから賃金の方が高めになっておりまして、少なくとも二〇〇七年ぐらいまでは高過ぎる賃金の調整局面にあったと。なかなか、こういう中では景気回復が長く続いても賃金が上がりにくかったと。これは致し方ないのかなと。足下は労働生産性見合いで実質賃金動いておりますので、それなりに景気が戻ってくれば、前回の戦後最長の景気回復のときよりも家計への恩恵というのは早く行きやすいのかなと。
 実際に、五ページの右側のグラフを御覧いただきますと、前回の戦後最長の景気回復のときも、実は一時的に賃金は二〇〇五年、六年上がっていました。ただ、ここは二〇〇六年に日銀が拙速な金融引締めをやったりとか、資源価格の高騰、さらにはサブプライムローン問題、こういった外的な要因によって頓挫してしまったと、こういったような状況にあるのかなというふうに考えております。
 次に、一枚おめくりいただきまして、そもそも今回の大胆な金融緩和について、やってもデフレ脱却できないとかバブルを生み出してしまうと、こういったような御批判もあります。ただ、こちらにつきましても、今の段階では必ずしもそういうことは言えないんじゃないかなというふうに考えていまして、そもそも今回日銀が行うことにした異次元の金融緩和というのは、アメリカがこれまでやってきているグローバルスタンダードの金融緩和を日本もやろうということにすぎないと。じゃ、なぜそういうことをやるかというと、実際アメリカで今のところは成果を上げているということは紛れもない事実だと思います。
 実際に、六ページの左側のグラフ御覧いただきますと、これはアメリカのマネタリーベースの増加とアメリカの株価指数の数字を見たものですけれども、これ見ると、やはり量的緩和の効果は非常に大きくて、株価も上昇していると。バブルという御懸念もあるかもしれませんけれども、実際にこれについては、足下、アメリカでは全然バブルというふうな兆候は出ていないというふうに私は考えております。
 さらに、アメリカについても、実際、じゃ、家計の方に恩恵は及んでいるかというふうに見てみると、同じページの右側のグラフですけれども、株の上昇からは一年ぐらい遅れましたけれども、アメリカの家計所得も個人所得も着実に拡大しているというところでは効果がやはり出ているのかなというふうに考えております。
 一枚おめくりいただきまして、そうはいっても、アメリカが今足下で世界経済の中でも絶好調であると。これは大胆な金融緩和が非常に効果は大きいと思うんですけれども、それだけではなくて、例えば通商政策を積極的に進めるですとか、シェール革命の効果も大きいと思います。そういった意味では、確かに今のところアベノミクス順調に来てはいるとは思うんですが、アメリカに近い効果を上げるためには、やはりプラスアルファ、第三の矢、ここのところをいかに進めていくかが重要だと思います。
 特に、アメリカと日本の金融政策の効果の違いといたしましては、アメリカについては、金融緩和をしてドル安になっても、エネルギーの価格はドル建てで取引されているので自国通貨が安くなった分値上がりするということはないんですけど、日本の場合は円ですから、ドルが上がった分原材料の価格も上がってしまうということからすると、いかにエネルギーコストを抑えるかというところがアベノミクスの効果をより着実なものにするというところの大きな鍵を握っているのかなというふうに考えています。
 さらに、通商政策のところもそうなんです。ここは、日本は今いい方向に進んできていると思いますね、この調子で行っていただければと思うんですけれども。
 最後に、八ページのところでございまして、じゃ、エネルギーコストをどう抑えるかということなんですけれども、一番手っ取り早いのは安全な原発の再稼働だと思うんですけれども、なかなかそうは簡単にいかないものですから、そうなると、アメリカで起きたシェール革命、これを有効に活用しましょうということだと思います。
 今、日本のLNGはジャパン・プレミアムという形で非常に高い値段で買い付けられておりますので、シェール革命なんかによる調達先の多様化なんかを交渉のカードとして、このジャパン・プレミアムをいかに抑えていくかというところが一つポイントですし、さらには、もう既に動きつつありますけれども、今、シェール革命の要因もあって世界的な石炭の値段が下がっているというところで、石炭火力、これが見直されていると。こういったところをやはり稼働率を上げて、石炭火力の比率を上げていくと。こういったところがアベノミクスの効果をより高めていくというところで重要なのかなと。これは、紛れもなく第三の矢である成長戦略の分野になっておりますので、ここが大きな鍵を握っているというふうに考えております。
 私からは以上でございます。御清聴ありがとうございました。

○石井一予算委員長 ありがとうございました。
 次に、上念公述人にお願いいたします。上念公述人。

○公述人 上念司経済評論家 皆さん、おはようございます。(発言する者あり)ありがとうございます。
 政治を志す皆さんは、挨拶は人間関係の基本だと思いますので、もう少し大きな声でお願いいたします。皆さん、おはようございます。(発言する者あり)ありがとうございます。経済評論家、上念司でございます。
 本日、私は、この場に来てお訴えしたいことは一つだけです。ここは国の政策を左右する場ですから、誤った情報によって誤った政策を選んでしまったら国が大変になると、このことをまず肝に銘じていただきたいなと思って今日はこの場に来ました。
 例えば、戦前の近衛内閣末期、そして東条内閣に至るとき、対米開戦という誤った決断を誤った情報に基づいて日本国政府は行いました。その結果、日本はどうなったでしょう。一旦国は滅びてしまいましたよね。
 税と社会保障の問題、それから今回の経済、それから金融の問題、これら全て、誤った決断をすれば国民が塗炭の苦しみを味わうんだと、このことをまず肝に銘じなければいけない、そのために我々は正しい情報が何かということを見抜く目を持たなければいけないと、そのように思います。
 私の資料はこちらの資料になりますので、お手元に、二ページめくっていただいて三ページ目を御覧ください。
 これまで、大変残念ながら、誤った情報に基づいた政策が行われてきました。しかもそれが十五年間も続いていました。その誤った情報の根本原因というのは何かというと、まさにこの日銀理論というものであります。幸いにして黒田新体制はこの日銀理論を放棄しました。おかげで景気は良くなりつつありますが、ここで一旦ちょっとこの日銀理論というものを再検証していきたいと思います。
 なぜ日銀理論が間違っているか。彼らの主張は、金融政策で物価を左右できない、物価は金融政策で決まらないということを言っていました。その様々なバリエーションとして、金利がゼロになったら何もできないとか、銀行貸出しが伸びなければ意味がないとか、デフレは中国の安価な製品が流入してくるから起こるとか、しまいにはデフレは人口減少で起こるなんというとんでもないでたらめを言っておりました。
 これら一つ一つは簡単に論破できるんですけど、例えば、人口が減っているからデフレになっているのであれば、世界中の人口減少国全てがデフレになっていなければ話のつじつまが合いません。ところが、デフレになっているのは日本だけです。中国から安い製品を輸入している国は日本だけではありません。GDP比で見ればアメリカやオーストラリアの方がたくさん中国から物を買っています。ところが、アメリカもオーストラリアもデフレではございません。
 ということで、こういった誤った理論に基づいて旧日銀の誤った金融政策を展開したことによって日本のデフレは何と十五年も続いてしまったという大変恐ろしい状態でございます。仮に、日銀の言うことが正しくて、もしお金を幾ら刷っても物価に全く影響を与えないということが正しいのであれば、これはこれで非常にいいことだと思うんですね。なぜなら、毎年百兆円お金を刷ってこれを予算にしてもインフレ起こらないわけですから、無税国家が誕生しますよね。
 つまり、彼らの言っていることはもうそもそもでたらめだったんですね。ところが、この政策を十五年間も我々はやってしまった。しかも、それを輪に掛けて増税までしようとしてしまったということで、日本経済はこの十五年間塗炭の苦しみを味わいました。
 一番端的な例は、一九九七年ごろまで自殺者数は二万人ぐらいでしたが、九八年から三万人に増えて、一万人増えた状態がもう十五年間続いています。合計十五万人の方々が経済苦を理由に亡くなっています。この亡くなった方の合計の人数は日露戦争の戦死者よりも多い人数です。一・五倍ぐらいです。まさに、とんでもない政策によって国民が塗炭の苦しみを味わった、それがこれまでの十五年間だったと私は思います。
 次のページを御覧ください。実際にデータで検証しましょう。
 日銀は一生懸命やっていたというような人がいますけれども、デフレと超円高を招いた日銀の大罪というこちらのチャートですね。御覧いただければ分かるとおり、日銀は他国の中央銀行に比べてお金の発行量が明らかに少ないです。全く何もやっていません。よく絶対量が多いという話をする人がいるんですけど、関係ないですね、市場が見ているのは変化率ですから。二〇〇七年のリーマン・ショック以降、どれほど積極的に貨幣の増加に取り組んだかというのはこのグラフを見れば一目瞭然なわけです。日本円の量が少ないから円高になり、お金の量が少ないからみんなお金を大事にして物を買わない、これがデフレの原因だったわけですね。ところが、四月四日の通称黒田バズーカによってこの誤った政策は放棄されました。結果、何が起こったのか、一応データで確認しておきましょう。
 次のチャートを御覧ください。
 まず、白川時代ですね。包括緩和という極めてインチキな、やったふりの金融緩和を行っていました。これは、これまでの輪番オペとは別に六十五兆円程度の基金を用意して、この基金の枠を増やしたり減らしたりすることで金融緩和をやったふりをしていたんですが、実際にはこれはほとんど何もやっていなかったに等しいです。六十五兆円のうち長期国債に充てられた金額というのはごく僅かで、その他のものはほとんど短期の債券と交換していただけです。デフレに陥った日本のような状況において短期の債券と貨幣を交換しても、お金とお金を交換しているのとほとんど変わらないんですね。つまり、六十五兆円ものお金を用意して、ほとんどのお金をお金とお金の交換をするような意味のないオペレーションに使っていた、これが日銀の包括緩和の実態だったんです。
 これを追及してくださいと、私は、民主党政権時代、民主党のいろんな幹部の方にお願いしたんですが、国会議員の方、一部熱心な方はいらっしゃったんですが、残念ながら執行部の方は余り熱心ではなく、これをやってもらえませんでした。
 そして、安倍政権が誕生してからここを見事についていただきまして、こちらの表にあるとおり、白から黒へとオセロが反転するような金融緩和の実行が行われたわけです。基金を増やすという包括緩和を放棄して、二年でマネタリーベースを二倍に増やすという徹底した金融緩和が行われました。これが中心ですね。それから、日銀券ルールも廃止と。買入れとなる長期国債の対象も大幅に延長しました。
 じゃ、その結果、何が起こったか。次のページを御覧ください。人々の予想が変わりました。
 予想物価上昇率というのは市場で取引されている物価連動債というものを基に算出することができます。こちら御覧いただければ分かるとおり、私、丸を付けておきましたが、二月十四日に、自民党の西村康稔議員が質問して三党合意で日銀法を改正しろというようなことをおっしゃって、慌てた日銀がいわゆるバレンタイン緩和というのを行ったんですね。このとき、予想物価上昇率はマイナスからプラスに転換しました。
 その後、日銀がこの効果を打ち消すために何もやらなかったんですが、その後、解散・総選挙、そして安倍内閣誕生、そして黒田バズーカ発射と続きまして、予想インフレ率は一気に一・六%まで上昇しております。明らかに期待の転換の効果がありました。
 この期待の転換を受けて、次のページ、御覧ください。
 まずは、その期待の転換の効果というのは資産市場に波及します。実体経済に波及するのは資産市場に波及した後なんですね。これ、よく株だけ上がって賃金上がらなきゃ意味がないじゃないかとおっしゃる方いるんですけど、逆に、賃金が先に上がって株が後から付いてくるなんてことが歴史上一回でもあったか、これを証明していただかないと話にならないと思うんですね。経済学のこれは基本中の基本ですけれども、金融政策の効果は最初に資産市場に及びます、資産市場に波及した後、時間を置いて実体経済に及ぶんです。これが違うというんだったら、ノーベル経済学賞を取れますので、是非論文をお書きいただきたいと思います。
 実際に見てみましょう。資産市場に大きな効果が及んでいるのは、もうこのグラフを見れば一目瞭然ですね。現実を見なければいけないんです。現実を見ないということが一番誤った情報によって国の政策を決めてしまう、そういう危険性をはらんでいるんですね。論より証拠、まずは資産市場に及んだ効果を見ましょう。このグラフ、どう見ても右肩上がりにしか見えません。右肩下がりに見える人は是非眼科の診断を受けたらいいんじゃないかなと私は思います。
 では、次のページを御覧ください。実体経済への波及について、先ほど永濱公述人からも幾つか御指摘ありましたが、徐々にですが、波及が出ております。
 私は二つの点について指摘したいと思います。まず、就業率の変化ですね。上の方のグラフを御覧ください。実体経済への波及というところですね。図四と書いてありますけれども、これは労働力調査から抜粋しました。一、二、三月、今年に入りまして就業率というのは大幅に、趨勢的に増えております。それから消費支出、こちらについても調べてきました。御覧いただければ分かるとおり、二〇一三年一月から急激に消費支出は拡大しております。もう少しこれ様子を見てくればかなりこれは上がってくるんじゃないかと、実体経済への波及というのもかなり出てくるんじゃないかと思います。
 それから、私は各地方紙の経済欄よく読んでいるんですけれども、何々新聞という地方の新聞に、今年の高卒、新卒内定率は過去最高ですと、ここ十年で最高ですみたいな記事をたくさん見るようになりました。東北各県を私全部見たんですけど、全ての県でこういった情報は出ています。高知でも出ていました。佐賀でも出ていました。どの県でも今、県内の新卒、高卒そして大卒、内定率は過去十年で最高のレベルまで達しようとしています。今後、時間がたってくれば、これが改めてマクロ統計にも出てくるのではないかと私は思います。
 ということで、その次のページを御覧ください。デフレ脱却に向けた五段階ということでまとめさせていただきました。この五段階というのは、現在日銀副総裁を務めていらっしゃいます岩田規久男先生が学習院大学時代にあるシンポジウムで講演されたときの内容を私がまとめたものです。
 デフレ脱却には五段階があります。まず一つ目、中央銀行の大幅な政策転換、いわゆるレジーム転換が必要です。そして二つ目、予想インフレ率の上昇が必要です。いわゆる期待の転換ですね。これは既に起こりました。そして三つ目、インフレを予想した人々が値上がりしそうな資産を買い求めます。実際に値段が上がってきました。これも先ほど確認したとおりです。そして四番目、資産の担保価値が上がり、その効果が実体経済に徐々に波及していきます。今はこの第四段階までデフレ脱却が来ております。
 実は、小泉内閣、第一次安倍内閣当時の量的緩和政策も、この第四段階までデフレ脱却は進行していたんですね。ところが、二〇〇六年、ある人が裏切りました。当時の日銀総裁だった福井俊彦さんです。この人が二〇〇六年に量的緩和を解除してしまった。しかも、実際にはまだデフレを脱却していなかったんですね。にもかかわらず量的緩和を解除して、そして安倍政権はその後、第一次安倍内閣は崩壊していくという悲惨な末路をたどってしまったわけです。つまり、病気が治って、まだ手術が終わったばっかりの人に校庭を十周してこいなんというのは、とんでもないしばき主義なんですね。こういうことをやってはいけないと。日本経済は長らく病気だったわけですから、完全に病気が治るまでは金融緩和をやめてはいけませんし、まして増税もやってはいけない、できれば緊縮財政もやめた方がよいというのが経済学のおきてなのであります。
 ということで、このまましばらく第四段階を続けていけば、五段階、しばらくは積み上がった内部留保を放出するだけで資金が賄えますが、やがてそれが足らなくなって銀行貸出しが増えてくるという段階に進行していきます。この段階になって初めてマネーストックが増えてインフレ率が上昇するんですね。にもかかわらず、アベノミクスを批判する人は、金融緩和をやった瞬間にマネーストックが増えないとか、やった瞬間にインフレ率が上がらないということをもって、金融緩和に効果がないというようなことをおっしゃいます。これはとんでもない間違いかなということでございます。
 では、次のページを御覧ください。次に、財政政策の役割について述べたいと思います。
 ノーベル経済学賞ポール・クルーグマン氏の提言ということで、ニューヨーク・タイムズの四月二十八日に掲載されたコラムの方を私はここに抜粋しました。クルーグマンいわく、国の経済を家計で考えてはいけませんと。なぜなら、国の経済というのは、誰かの支出は誰かの所得なんです。誰かの支出が誰かの所得であるということは、全ての人が支出をやめてしまったら全ての人の所得がなくなってしまうということなんですね。今、アメリカやヨーロッパは緊縮財政をやっていますが、これは大失敗しています。
 次のページを御覧ください。
 先行事例、イギリスにありますけれども、彼らは金融緩和を一生懸命やったんですが、緊縮財政に転じて消費税を増税しました。その結果、失業率は全然減りません、実質GDPも伸びません、これが現実です。私たちも、もしデフレを脱却する前に増税してしまってはイギリスの二の轍を踏む可能性があります。
 その次のページを御覧ください。
 しかも、緊縮財政派が根拠としていた論文、ケネス・ロゴフとカーメン・ラインハートの論文というのがあるんですが、これは政府債務の残高がGDPの九〇%を超えると経済成長率がマイナスになる、このグラフでいうと青いグラフのような展開になるというふうに言っていた論文なんですが、実はこれ間違っていたことが今年の四月に分かりました。改めてデータを入れ直して同じ公式で計算し直すと赤いグラフの方になるんですね。つまり、緊縮財政は財政再建における理論的根拠を完全に失ってしまったわけです。理論的にも全く根拠がない話になりました。これ、実は唯一の論文だったんですよ、緊縮財政を正当化するということです。
 ということで、次のページを御覧ください。誰かの支出が誰かの所得であるなら、政府がここはお金を使って国民の所得にしていくということがとても重要です。
 そこで、どうせお金を使うなら、民間のリソースを食わない、民間とはバッティングしないところにお金を使うべきではないかと。じゃ、どこに使えばいいのか。東日本大震災があって、南海トラフ地震、首都直下型地震が心配されている昨今、防災インフラにお金を使うことはこれ非常にいいことではないかと思います。民間がお金を使わなくてしょぼくれているときには政府が代わりにお金を使って民間を豊かにすると、これが大事なことです。
 ここに書いておきましたけれども、今、我々日本が抱えている様々なインフラはあと数年で耐用年数を迎えようとしています。これらの設備を更新するだけでも相当な財政支出が必要です。今は緊縮財政をやっている場合ではありません。より多くの支出をして国民を豊かにしていく、そういうことが大事ではないかと思います。
 そして、次のページを御覧ください。
 最後に一つ、これだけ言わせてください。壊滅的損害の予防原則というものがあります。非常に小さなリスクでも、もしそれが発生したとき国が滅ぶような大きな被害が及ぶのであれば、そのことを防衛するために使うお金を出し惜しみしてはいけないという、こういう原則があります。これ気候変動の枠組み会議なんかで言われている原則なんですけど、是非この原則を防災・減災ニューディールにも適用していただいて、リフレ政策と大規模な財政支出をどんどん進めていただいて、日本経済を復活させていただければというふうに考えております。
 御清聴ありがとうございました。

○舛添要一 お三方、ありがとうございました。  一つだけ質問します。私が今からしゃべりますことにコメントしてください。
 今日はマクロ経済の話をお伺いして、私はずっと大胆な金融緩和ということを申し上げてきたんで、そういう方向で今の安倍内閣がかじを切っているというのは大変結構だと思います。ただ、少しミクロの側面、特にグローバル経済の中で、日本の企業がいかにして競争力を保ち、いいパフォーマンスを上げるかと、そういう視点がどうしても必要だなというふうに思っております。
 同僚の議員からもいろいろ質問ございましたように、最終的には仕事をしている従業員の給料が上がらないといけない。そうすると、経営者の立場から見たときに、なぜ給料を賃上げをしないのかと。それはいろんな理由があるんで、特に内部留保ばっかりためているじゃないかと、そういうことがあるんですけれども、一つは、例えば賃上げに回る前にどこに行くかというと、株主の配当ということがあります。外国人株主が三割近くになっていると配当性向が非常に高いというような問題がある。そうすると、いわゆる株主資本主義みたいなのでいいだろうかということで、これは経済財政諮問会議でも日本型資本主義の試みのような議論が行われています。
 ただ一方、投資をしようという気になるような、そういう企業でなければ要するにお金はそこに入ってきませんから、じゃ、どんどん増資をして会社を広げていこうと、それから国際的な競争の場で勝ち抜いていこうと、こういう企業にするためにどうすればいいかと、非常に日本の企業は国際的に見て遅れている側面があります。だから、早く会社法の改正をやりなさいというようなことを申し上げているわけですけれども。
 そうすると、片一方では株主資本主義というものに対する反論も試みないといけないけれども、グローバルエコノミーの中で日本企業が競争力を保っていくためには必要な条件がいろいろあって、それは制度改正を含めていろいろあると思いますので、そういう問題意識を私は持っております。
 それで、お三方に今の私の問題意識に対してそれぞれどのようなお考えをお持ちかということをお答えいただいて、それで終わりにしたいと思います。
 ありがとうございます。

○公述人 小幡績應義塾大学大学院経営管理研究科准教授 御指摘のとおりだと思います。
 中小企業がもう最近はグローバル化を進めているというデータがあります。その伸び率が非常に大企業よりも高くて、倍々で伸びていますが、ただ数が非常に少ない。そこはやっぱり人材不足やノウハウ不足で、技術はすごくいいものを持っているのに、世界を目指そうとするとどうしていいか分からないと。やはり日本型というと、今のところは商社を使うとか、そういう形で商社の活躍の場が広がってきているというのが現状で、地方銀行とかも大手銀行を見習っていろんなノウハウを吸収しつつ地域を支援しようという動きがあって、私はこれは徐々に進んでいて、非常に日本経済はいい方向に進んできていると思います。ただ、ペースは遅いので世界の変化には付いていっていないのは事実です。ですから、議員がおっしゃられたように、政策を進めていただくのは大変すばらしいことだとは思います。
 やはりグローバルに進めないときはグローバルアライアンスが、提携企業がうまく取れないと。それで、株主も、何か日本企業をいじめて、ただ株を上げてもうけて逃げる人が多かったものですから、そうじゃなくて、投資家として付加価値を持ってきてくれる、取引先や提携先や合併先を持ってきてくれるような、本当の意味での長期のいいグローバルな資本家を呼び込むような政策が必要だと思いますので、基本的に賛成でございます。

○公述人 永濱利廣第一生命経済研究所主席エコノミスト 基本的に私も今の小幡先生と意見が近くて、実際、やっぱり日本の中小企業なんかを回っても、非常に技術が高い、世界で打って出れるところがあるんですけれども、問題なのは、中小がゆえになかなか外に販路を拡大したりとか、そういうところがなかなか難しいというところがあって、それは例えば農産品なんかにも言えて、日本にも非常にいい農産品、果物なんかがあっても、やっぱり個別個別の地域でちょっとずつ海外に出しても、相手は安定供給を求めているわけですし、そういった意味からすると、日本の本当にいいものを、公的な支援でいえば、いかに取りまとめて一括で売り込んでいくかというところが非常に大きなポイントになってくるのかなということからしますと、そういう点で、公的な分野、部門の貢献といいますか、競争力強化に結び付けることができるのかなというふうに考えております。

○公述人 上念司経済評論家 私は、痛くない注射針で有名な岡野工業の岡野社長さんに直接お話を聞いたんですが、岡野社長いわく、日本の大企業には技術はないと、あらゆる技術は、我々中小企業の社長方が自分のリスクをしょって、それでつくっているんだと、それを買いに来るのが大企業で、売ったときに権利を守るような、そういういろんな法務部門とかいろいろあって守ってくれるのは大企業なんだと、それとうまくやっていくには、特許は大企業にあげましょうと、発案者に名前載っけてください、その代わり守るときは一緒に守るんですよと、そういうような契約をやっていかなきゃいけないということをおっしゃっていました。
 こういったこと、いろんなプラクティスが既に日本国内にたくさん存在していて、本当にちっちゃい企業でもグローバル化して、この部品がなければもうこのでっかい工場は動かないみたいな技術を持った、そういう中小企業は日本には実はたくさんあるんですね。そういうベストプラクティスを集めて、実際にどういうことをやってきたのかというのをうまく制度として、会社法の中とか、それから外為法の規制なんかも関係あるかもしれませんし、入管法の問題とかもあるかもしれませんし、そういったところに集めて調整していくという地道な作業が必要なんじゃないかなと。やっぱり成功者に学ぶということがビジネスにおいては一番重要なんじゃないかと私は思っています。
 以上です。

○舛添要一 終わります。どうもありがとうございました。

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